「PFも良いし、DDも問題ない。でも取引数が少ない」
バックテスト結果を見ていると、こういうEAに出会うことがあります。PF2.0・DD5%・取引数30回。数字だけ見れば優秀に見えますが、EA-Lab的にはこの結果を素直に信用することができません。
理由は取引数が少なすぎるからです。
GENESIS・凜・AXISの3つのEAを開発してきた中で、取引数は地味ですが最も重要な指標の一つだという結論に至っています。この記事では、取引数が少ないと何が問題なのか、どのくらいあれば信頼できるのかを開発者目線で整理します。
取引数が少ないと何が起きるか
取引数が少ない場合に起きる本質的な問題は、結果が「たまたま」である可能性が排除できないことです。
コインを10回投げて8回表が出たとします。「このコインは表が出やすい」と言えるでしょうか。言えません。10回では偶然の範囲内です。しかし1000回投げて800回表が出れば、それは統計的に意味のある結果です。
EAのバックテストも同じです。取引数が少ない場合、そのPFや勝率が「ロジックの優位性」なのか「たまたまその期間に相性が良かっただけ」なのかを判断できません。
例えば取引数が30回でPF2.0のEAがあったとします。このEAが次の30回でも同じPFを維持できる保証はありません。サンプルが少ないほど、結果のブレ幅が大きくなります。
凜の取引数が少ない理由と向き合い方
EA-Labの3つのEAの中で、取引数が最も少ないのは凜です。10年バックテストで451回、GENESISの1,223回・AXISの1,186回と比べると約3分の1です。
これはアノマリー型EAの特性によるものです。凜は特定の時間帯・曜日に絞ってエントリーするため、トレードできるタイミング自体が限られています。取引数を増やそうとすると、アノマリーの優位性が薄まる時間帯にまで手を広げることになり、ロジックの根拠が崩れます。
凜の開発では取引数の少なさへの対処として、バックテスト期間を10年に設定しています。1年あたり約45回のトレードでも、10年積み上げれば451回になります。この取引数であれば、ある程度の統計的信頼性が確保できると判断しています。
取引数が少ないEAの評価については、こちらの記事も参考になります。
取引数と統計的信頼性の関係
統計学的には、サンプル数が増えるほど結果の信頼性が高まります。EAのバックテストにおいても同じ原則が当てはまります。
取引数と信頼性の目安をざっくり整理すると、以下のようになります。
〜100回未満:信頼性が低い。PFや勝率の数値に大きなブレが生じる可能性があります。この段階のバックテスト結果はあくまで参考程度に留めるべきです。
100〜300回:最低限の参考になる水準。ある程度の傾向は見えますが、相場環境によるブレが排除しきれません。
300〜500回:統計的に意味のある水準に入ってきます。凜の451回はこのゾーンに位置します。
500回以上:信頼性が高い水準。GENESISの1,223回・AXISの1,186回はこのゾーンです。長期間・多くの相場環境を経たデータとして評価できます。
ただしこれはあくまで目安です。取引数が多くても、特定の相場環境にだけ集中していれば信頼性は下がります。取引数はバックテスト期間とセットで評価する必要があります。
バックテスト期間の考え方については、こちらで詳しく解説しています。
取引数を増やせばいいわけではない
「取引数が少ないなら増やせばいい」という発想は間違いです。
取引数を増やす方法はいくつかありますが、どれも代償があります。
エントリー条件を緩める→条件を甘くするほどノイズトレードが増え、PFが下がります。GENESISの開発でも、BOXのブレイク条件を緩めると取引数は増えましたが、ダマシによる損切りが増えてPFが悪化しました。
時間足を短くする→M15からM5に変えると取引機会は増えますが、スプレッドの影響を受けやすくなり、バックテストと実運用の乖離が大きくなるリスクがあります。
複数通貨ペアに展開する→同じロジックで複数通貨に展開すると取引数は増えますが、通貨ペアごとの特性の違いを無視したEAになります。GENESISはGBPUSD、凜はUSDJPYと通貨ペアを絞っているのは、それぞれの特性に合わせた設計をしているからです。
取引数はロジックの設計から自然に導き出されるものであり、数を増やすために設計を歪めることは本末転倒です。
バックテストで取引数をチェックする視点
EA販売サイトのバックテスト結果を見るとき、取引数の確認は必須です。
特に注意すべきパターンが2つあります。
①短期間で取引数が少ない場合
バックテスト期間が1〜2年で取引数が50回以下のEAは、ほぼ信頼性がないと考えて良いです。PFがいくら高くても、サンプル不足の状態では評価できません。
②長期間なのに取引数が極端に少ない場合
10年で100回未満という場合、年間10回以下のトレードです。この場合、1回の損失がPFに与える影響が大きすぎるため、安定した評価ができません。また実運用での検証にも時間がかかりすぎます。
逆に取引数だけが多すぎる場合も注意が必要です。月間100回以上のスキャルピング系EAは、スプレッドの影響を大きく受けるため、バックテストと実運用の乖離が起きやすい傾向があります。
バックテスト結果の信頼性の評価については、こちらの記事が参考になります。
EA-Labが取引数に対して下している判断
EA-Labの3つのEAにおける取引数の考え方を整理します。
GENESISは10年で1,223回、月平均約10回のトレードです。BOXブレイクアウト型として、条件を満たしたときだけエントリーする設計のため、この頻度が自然な水準です。
凜は10年で451回、月平均約3.7回です。アノマリー型として特定の時間帯・曜日に絞った結果です。取引数が少ない分、フォワード期間を長く取ることで信頼性を補う方針にしています。
AXISは10年で1,186回、月平均約9.9回です。トレンドフォロー型として、トレンドが発生した局面に絞ってエントリーするため、GENESISと近い頻度になっています。
3つとも「取引数を増やすためにロジックを変える」という判断はしていません。それぞれのロジックの性質に合った自然な取引数で運用しています。
月間トレード回数と統計的信頼性の関係についてはこちらでも解説しています。
まとめ
取引数が少ないバックテストは、PFや勝率がいくら良くても信頼性が低くなります。
EA-Lab的な取引数の評価基準をまとめると、300回以上あればある程度の信頼性が確保できる水準、500回以上あれば高い信頼性として評価できます。ただしこれはバックテスト期間・ロジックのタイプ・通貨ペアの特性とセットで判断する必要があります。
EAを選ぶとき、PFと最大DDを確認したら、次に見るべきは取引数です。この3つをセットで確認することが、バックテスト結果の正しい読み方の基本です。