「EAを動かしているのに、思ったより資金が増えない」
EA運用を始めて数ヶ月経った人から、よく聞く声です。バックテストでは右肩上がりのグラフが出ていたのに、実際に動かしてみると資金の増え方が想定より遥かに遅い。
この「ギャップ」の原因は、ほとんどの場合複利に対する誤解です。
EA-LabでGENESIS・凜・AXISを開発・運用してきた立場から、複利の正しい理解と現実的な資産形成の考え方を整理します。
「複利で資産が爆発的に増える」という誤解
EA界隈でよく見かける表現があります。
「月利5%を複利運用すると1年で約80%増える」
数字として間違いではありません。月利5%を12ヶ月複利で計算すると、理論上は約79.6%の増加になります。これを見て「EAで複利運用すれば資産が爆発的に増える」と期待する人は多いです。
しかしこの計算には重大な前提が隠れています。毎月必ず5%の利益が出ることです。
現実のEA運用では、毎月5%の利益が安定して出ることはありません。プラスの月もあればマイナスの月もある。EA-Labの3つのEAのバックテストを見ても、月ごとの成績には大きなバラツキがあります。「月利5%」という数値はあくまで長期平均であり、毎月安定してその数値が出る保証はありません。
複利が「思ったより効かない」3つの理由
①DD期間中は複利効果がマイナスに働く
複利とは「利益を元本に加えて次の取引に使う」という仕組みです。利益が出ているときは雪だるま式に増えますが、損失が出ているときは雪だるまが逆回転します。
例えば資金100万円でDD10%が発生すると、資金は90万円になります。そこから10%の利益を出しても99万円にしかなりません。元の100万円に戻すには約11.1%の利益が必要です。DDがあるほど、元本回復に必要なリターンが増えていきます。
GENESISの最大DDは8.69%、AXISは12.49%です。この水準のDDが発生したとき、複利運用では元本回復に必要なリターンが固定ロット運用より大きくなります。
②ロットの端数問題
複利運用では、資金が増えるたびにロットを上げていく必要があります。しかしFXのロットは最小単位があります。例えば最小ロットが0.01lotのブローカーで資金が少ない段階では、0.01・0.02・0.03というステップでしかロットを増やせません。
資金が十分大きくなるまでは「理論上の複利効果」と「実際に使えるロット」の間に乖離が生じます。この乖離が「思ったより増えない」という感覚につながります。
③コストの積み重なり
複利計算ではスプレッド・スワップといったコストが考慮されていないことが多いです。実際の運用ではこれらのコストが毎トレード・毎日積み重なります。少額運用では特にこのコストの影響が相対的に大きくなります。
AXISが固定ロットを選んだ理由
AXISの開発過程でロット可変方式(複利的な運用)を試した時期がありました。
資金が増えるにつれてロットを上げていく設計です。バックテスト上では資産曲線の傾きが急になり、見栄えは良くなりました。しかし実運用シミュレーションでDDが不安定になるという問題が発生しました。
ロットが上がった状態でDD局面に入ると、固定ロット運用より実額での損失が大きくなります。またDD局面でロットを下げるタイミングの判断が難しく、「いつロットを下げるべきか」という新たな問題が生まれました。
結果として固定ロット・偶数ロット運用を選択しました。リターンの最大化よりリスク管理の安定性を優先したという判断です。
この経験から、複利運用は「資産を増やす手段」として魅力的に見えますが、DD管理という観点では固定ロット運用より難しいという結論に至っています。
現実的な資産形成の考え方
では複利運用は一切やめるべきなのかというと、そういう話ではありません。
複利効果を得たいなら、段階的な増資という形で取り入れるのが現実的です。
具体的には、一定の利益が積み上がった段階でロットを1段階上げるという方法です。例えば「資金が当初の130%になったらロットを上げる」という基準を決めておき、それ以外の局面では固定ロットで運用します。
この方法の利点は「DD局面でのリスクが管理しやすい」ことです。ロットを上げるタイミングが明確なため、感情的な判断が入りにくくなります。また「いつロットを下げるか」という判断を切り離せます。
EA運用での複利・増資の基準についてはこちらで詳しく解説しています。
「資金が増えない」と感じたときに確認すべきこと
思ったより資金が増えないと感じたとき、まず確認すべきことを整理します。
①評価期間が短すぎないか
EA運用で資産形成の効果を実感するには最低でも1年以上の運用期間が必要です。数ヶ月の運用でDD局面に当たると「増えない」どころか「減っている」状態になることもあります。これはEAの問題ではなく、統計的な結果が出るまでの期間が短すぎることが原因です。
②初期資金に対してロットが適切か
推奨証拠金より少ない資金でロットを設定していると、DDの影響が相対的に大きくなります。逆に「早く増やしたい」という気持ちからロットを上げすぎていると、DD局面での損失が想定より大きくなります。初期設定のロットが適切かを見直すことが重要です。
③期待値の設定が現実的か
「月利5%・年利60%」という数値を期待して運用を始めた場合、現実の成績とのギャップが「増えない」という感覚を生みます。EA-LabのGENESIS・凜・AXISはPF1.2〜1.5の現実的な設計です。派手な数値は出ませんが、長期間にわたって安定した再現性を優先しています。
月利の現実的な水準についてはこちらで解説しています。
EA運用で資産を増やすための現実的なプロセス
EA-Lab的な資産形成の考え方を整理します。
短期(〜1年):安定稼働の確認期間
最初の1年はEAが設計通りに動いているかを確認する期間です。利益を期待する段階ではなく、DDがバックテスト範囲内に収まっているか・トレード回数が想定通りか・スプレッドやスワップの影響が想定内かを確認します。
中期(1〜3年):実績の積み上げ期間
フォワード実績が1年以上積み上がった段階で、EAのコンディションを評価します。年間の累計成績がプラスで推移していれば、設計通りに機能している証拠です。この段階で段階的なロット調整を検討できます。
長期(3年〜):複利効果が現れ始める期間
長期間にわたって安定した運用ができていれば、段階的なロット増加の積み重ねで複利効果が現れ始めます。ただしこれは「爆発的な増加」ではなく「じわじわとした積み上がり」です。EA運用の資産形成は短距離走ではなく長距離走です。
長期運用の現実的なプロセスについてはこちらでも詳しく解説しています。
まとめ
EAで「思ったより資金が増えない」と感じる主な原因は複利への過剰な期待です。
複利計算は「毎月一定のリターンが出る」という前提に基づいていますが、実際のEA運用ではDD期間があり、ロットの端数問題があり、コストが積み重なります。これらが「理論値と現実のギャップ」を生みます。
EA-LabがAXISで固定ロット運用を選んだのも、複利効果よりリスク管理の安定性を優先したからです。資産形成においても、短期的な増加速度より長期的な安定性を重視する考え方がEA運用の本質です。
「増えない」と感じたとき焦ってロットを上げたり、EAを変えたりするのが最も危険な行動です。まず評価期間・ロット設定・期待値が現実的かを確認することが、EA運用で長く生き残るための基本です。