PF・DD・リカバリーファクター・シャープレシオ。
EAを評価する指標の話をしてきましたが、今回紹介する指標は少し毛色が違います。
期待利得(エクスペクタンシー)です。
他の指標が「EA全体のパフォーマンス」を評価するのに対して、期待利得は「1回のトレードあたり、平均でいくら期待できるか」を示します。
EA-LabでGENESIS・凜・AXISのバックテストを確認するとき、MT5のバックテスト結果に「期待利得」として表示されます。この数値を見ることで、EAのロジックが本当に機能しているかどうかを別の角度から確認できます。
この記事では、期待利得とは何か、なぜEA評価に使うべきかを開発経験をもとに解説します。
期待利得(エクスペクタンシー)とは何か
期待利得とは「1回のトレードで平均的に期待できる利益・損失の金額」です。
MT5のバックテスト結果画面では「期待利得」として表示されます。
計算式はこうです。
期待利得 = (勝率 × 平均利益)−(負け率 × 平均損失)
例えばこういうケースです。
勝率60%・平均利益1,000円・負け率40%・平均損失800円の場合
期待利得 = (0.6 × 1,000)−(0.4 × 800)= 600 − 320 = 280円
この場合、1回のトレードあたり平均280円の利益が期待できるということになります。
期待利得がプラスであれば、長期でトレードを繰り返すほど利益が積み上がる設計になっていることを示します。逆にマイナスであれば、トレードを続けるほど損失が膨らむロジックということになります。
PFと期待利得の関係
PFと期待利得は密接に関係していますが、見えるものが違います。
PFは「総利益 ÷ 総損失」です。全体の利益と損失のバランスを示します。
期待利得は「1トレードあたりの平均損益」です。個々のトレードの質を示します。
PFが1.2のEAは、総利益が総損失の1.2倍あることを示します。しかしそれが「1回あたりいくら期待できるか」はPFだけではわかりません。
期待利得を見ることで「このEAを1回動かすたびに平均XX円の利益が期待できる」という具体的な数値が把握できます。
GENESISの10年バックテストでの期待利得は6.96(円/取引)です。1回のトレードあたり平均約7円の利益が期待できるという意味です。
「小さい」と感じるかもしれませんが、これは初期証拠金10,000円・0.1ロット前後での数値です。ロットが大きくなれば期待利得も比例して大きくなります。
期待利得がマイナスのEAは即退場
期待利得の最も重要な使い方は「期待利得がプラスかどうかの確認」です。
期待利得がマイナスのEAは、長期で運用するほど損失が膨らみます。
これは絶対に避けなければならない状態です。
バックテストで期待利得がマイナスになっている場合、それはロジックに根本的な問題があることを意味します。いくらフォワードを続けても、統計的に損失が膨らむ構造になっています。
EA開発初期のGENESISでも、ロジックが固まる前のバージョンで期待利得がマイナスになっていたことがありました。そのバージョンは即座に採用を見送りました。
期待利得がプラスであることは、EA運用を始めるための最低条件です。
GENESIS開発で期待利得を活用した場面
GENESISの開発中盤、ダマシ対策でフィルターを調整していた時期に期待利得を活用しました。
フィルターを強化すると取引数が減ります。しかしフィルターを強化したことで1回あたりの期待利得が上がるかどうかを確認するために、この指標が役立ちました。
あるフィルターを追加したとき、取引数は減りましたが期待利得が上がりました。これは「精度が上がった」ことを示します。
別のフィルターを追加したとき、取引数は減ったものの期待利得はほとんど変わりませんでした。これは「そのフィルターは本質的な優位性の改善に貢献していない」ことを示します。
期待利得を確認することで、フィルターが本当に有効かどうかを数値で判断できました。
この判断基準がなければ、有効でないフィルターを積み重ねて過剰最適化に陥っていたかもしれません。
期待利得と勝率の関係
期待利得を理解するうえで重要なのが、勝率との関係です。
よくある誤解として「勝率が高ければ期待利得も高い」というものがあります。しかしこれは正しくありません。
勝率が低くても期待利得が高いケースがあります。勝率40%でも、勝ちトレードの平均利益が負けトレードの平均損失の3倍あれば期待利得はプラスになります。
逆に勝率が高くても期待利得が低いケースがあります。勝率80%でも、負けトレードの損失が勝ちトレードの利益の5倍あれば期待利得はマイナスになります。
期待利得は勝率とリスクリワードの両方を反映した指標です。
GENESISの勝率は69.99%ですが、これだけでは期待利得がわかりません。平均利益と平均損失のバランスが合わさって初めて、1トレードあたりの期待値が決まります。
勝率の正しい見方はこちらで解説しています。
MT5のバックテストで期待利得を確認する方法
MT5のストラテジーテスターでバックテストを実行すると、結果画面(バックテストタブ)に「期待利得」として表示されます。
確認する場所はPFや最大DDと同じバックテストタブです。「期待利得」という項目を探してください。
注意点として、期待利得の単位は口座通貨です。USD口座であればドル、JPY口座であれば円で表示されます。同じEAでも口座通貨や初期証拠金設定によって数値が変わります。
期待利得を評価するときは、初期証拠金や通貨単位を揃えて比較することが重要です。
MT5のストラテジーテスターの使い方はこちらで解説しています。
期待利得の目安と評価方法
期待利得の「良い・悪い」は絶対値では判断できません。ロット・証拠金・通貨ペアによって変わるからです。
そのため評価は以下の2点で行います。
①プラスかマイナスか
最低条件はプラスであることです。マイナスのEAは論外です。
②取引回数との掛け算で総利益を確認する
期待利得 × 取引回数 = 純利益(概算)という関係があります。
例えば期待利得が7円・月間取引数が10回であれば、月間期待利益は約70円(0.1ロット・10,000円初期証拠金の場合)になります。ロットを上げれば比例して増えます。
この計算で「このロット設定でどれくらいの月間利益が期待できるか」を把握できます。
複数のEAを比較するときの活用法
期待利得は複数のEAを比較するときに特に役立ちます。
同じ期間・同じ初期証拠金・同じロット設定でバックテストを行い、期待利得を比較することで「1トレードあたりの効率」を比較できます。
EA-LabでGENESIS・凜・AXISを比較するとき、取引回数が異なる3本を同じ尺度で比較するためにこの指標が役立ちました。
凜は取引数が少ない(10年で451回)ですが期待利得が高い設計です。GENESISは取引数が多い(10年で1,223回)ですが期待利得はやや低めになります。
取引数 × 期待利得 = 純利益という関係で見ると、両者のバランスが理解しやすくなります。
EAの総合的な比較についてはこちらで詳しく解説しています。
まとめ
期待利得(エクスペクタンシー)とは「1回のトレードあたり平均でいくら期待できるか」を示す指標です。
計算式は(勝率 × 平均利益)−(負け率 × 平均損失)です。
期待利得がプラスであることはEA運用の最低条件です。マイナスのEAは長期運用するほど損失が膨らみます。
期待利得は勝率だけでもリスクリワードだけでも決まりません。両方を反映した総合的な指標です。
GENESIS開発でフィルターの有効性を判断するためにこの指標を活用した経験から、期待利得は「ロジックが本当に機能しているか」を確認する重要な視点だと確信しています。
PF・DD・取引回数・リカバリーファクター・シャープレシオ・期待利得の6つを組み合わせることで、EAの実力をより正確に多角的に評価できます。