「複利で運用すれば資産が爆発的に増える」
こういう話、EA界隈でよく見かけます。
確かに数字だけ見ると魅力的です。月利3%を複利で運用し続ければ、1年で約43%の増加になります。単利と比べると差は歴然です。
しかし結論から言います。
EAの複利運用は、リスクの複利でもあります。
利益が増えるペースと同じように、損失のペースも加速します。これを理解した上で運用しないと、複利は資産を増やす手段ではなく、資産を溶かす加速装置になります。
EA-LabではGENESIS・凜・AXISを開発・運用する中で、複利運用についての考え方を実際の数値を通じて検証してきました。この記事では、複利運用のリスクとリターンを開発者目線で正直に解説します。
複利運用とは何か
複利運用とは、利益をそのまま元本に加えて次の運用に回す方法です。
EA運用で具体的に言うと、資金が増えるにつれてロットを段階的に上げていく運用方法です。
単利運用との違いはこうです。
単利運用では資金が増えてもロットを固定します。10万円で0.1ロットから始めたら、資金が20万円になっても0.1ロットのままです。
複利運用では資金に合わせてロットを増やします。10万円で0.1ロットから始めて、20万円になったら0.2ロットに上げます。
利益の絶対額が増えるため、資産の増加ペースが加速します。これが複利の力です。
複利のリターン側の話
複利運用のリターンは数字として魅力的です。
仮にGENESISを月利2%で運用できるとします。
単利の場合、100万円から始めると1年後には124万円(月2万円×12ヶ月+元本)です。
複利の場合、同じ月利2%でロットを増やしながら運用すると、1年後には約126.8万円になります。差は小さく見えますが、運用期間が長くなるほど差が開いていきます。
3年後の単利は172万円、複利は約203万円。5年後の単利は220万円、複利は約322万円。
数字だけ見ると複利の魅力は明確です。
しかし複利はリスクも加速する
ここが複利運用の本質的な問題です。
ロットを増やすということは、1回のトレードで動く金額が大きくなるということです。
資金が増えてロットを上げた状態でDD局面が来たとき、DDの絶対額も大きくなります。
具体例で説明します。
100万円・0.1ロットで運用していてDD10%が発生すると、損失は10万円です。
複利で資金が200万円になり0.2ロットで運用しているときにDD10%が発生すると、損失は20万円です。
DD率は同じ10%でも、絶対額は2倍になります。
さらに問題なのは、DD局面でロットが下がらないことです。
複利運用は「資金が増えたらロットを上げる」設計ですが、「資金が減ったらロットを下げる」タイミングの判断が難しいです。ロットを下げるのが遅れると、DD局面での損失が加速します。
AXISの開発でロット設計の難しさを学んだ
AXISの開発初期に、まさにこの問題に直面しました。
当初AXISはロット可変方式を採用していました。資金に応じてロットが自動で変わる仕組みです。複利的な発想で設計していました。
しかしシミュレーションを回すと問題が出てきました。
資金が増えているタイミングでDD局面が来ると、ロットが上がった状態で損失が重なります。DDが想定より大きくなる局面が発生しました。
逆に資金が減ってロットが下がるタイミングでは、回復のペースも遅くなります。「負けが続くときに損失が大きく、回復が遅い」という最悪のサイクルが発生するリスクが確認できました。
この経験からAXISは固定ロット方式に変更しました。
固定ロットにすることで、DD局面での損失が設計の範囲内に収まります。回復のペースも安定します。
「ロット可変=複利的な運用」は、理論上は魅力的でも実運用では管理が難しいということを、AXISの開発で身をもって学びました。
GENESISで考える「安全な複利のライン」
では複利運用は全くすべきでないのか。そうは思いません。
EA-Labが考える「安全な複利の考え方」があります。
段階的・手動でロットを上げる方法です。
自動でロットを変える可変方式ではなく、一定の資金増加があったタイミングで手動でロットを上げる方法です。
GENESISを例に考えると、こういうイメージです。
開始時:100万円・0.1ロット 150万円になったとき:0.15ロットに上げる 200万円になったとき:0.2ロットに上げる
このように資金が一定以上増えた段階でのみロットを上げる方法です。
この方法のメリットは2つです。完全な複利ほどリスクが加速しない点と、ロットを上げるタイミングを自分で判断できる点です。
ただしここでも注意が必要です。DDが発生したときにロットを下げる判断も同様に重要です。
資金管理の基本はこちらで詳しく解説しています。
複利運用に向いているEAと向いていないEA
全てのEAが複利運用に向いているわけではありません。
複利運用に比較的向いているEA
取引回数が多く月単位で安定した成績が出るEA、DDが小さく安定しているEA、PFが長期で安定しているEAです。
複利運用に向いていないEA
取引回数が少なく月ごとの成績バラつきが大きいEA、DDが大きく安定しないEA、フォワード期間が短くまだ信頼性が確認できていないEAです。
EA-Labで言うと、凜は取引回数が少ない(10年バックテストで451回・月平均約3.8回)ため、複利運用には向いていないと判断しています。月ごとの成績バラつきが大きく、複利でロットを上げると特定の月に集中してリスクが高まります。
GENESISは取引数1,223回(月平均約10回)でより安定しているため、段階的なロット引き上げは検討できますが、慎重に進める必要があります。
「複利で爆益」という言葉に注意
EA販売サイトやSNSで「複利運用で月利○%を継続すれば○年後に○倍」という計算を見かけます。
これは数字として間違っていませんが、前提が現実的ではないことがほとんどです。
月利3%を複利で10年継続できるEAは、現実にはほぼ存在しません。相場環境は変わります。EAのロジックにも寿命があります。DDで資金が減る局面もあります。
「複利で計算すると○倍」という話は、全ての前提が理想通りに続いた場合の数字です。
現実の運用では、DD局面での資金減少・ロット調整の判断・相場環境の変化など、複利計算に含まれていない要素が必ず発生します。
EAで破産するパターンについてはこちらも参考にしてください。
EA-Labの複利運用に対するスタンス
EA-Labの現在のスタンスは「固定ロットで安定運用を確認してから、段階的にロットを引き上げる」です。
まず固定ロットでフォワードを1年以上動かし、バックテストとの乖離が大きくないことを確認します。その上で資金が一定以上増えたタイミングで、手動でロットを段階的に上げていく方針です。
「いつかは複利的に運用したい」という気持ちはあります。しかし今の段階では、ロジックの信頼性を確認することを優先しています。
複利運用はロジックへの信頼が確立してから検討するものです。フォワード期間が短い状態・ロジックへの信頼がまだ浅い状態での複利運用は、リスクを無用に高めるだけです。
ロット設定の基本についてはこちらで解説しています。
まとめ
EAの複利運用はするべきか、という問いへの答えをまとめます。
複利運用はリターンを加速させますが、リスクも同じように加速します。AXISの開発でロット可変方式を固定ロットに変更した経験が、この問題を最もよく示しています。
複利運用を検討するなら、以下の条件が揃ってからです。フォワードで1年以上の実績があること、DDが設計の範囲内で安定していること、ロジックへの信頼が十分に確立されていること。
そして複利運用をする場合も、証拠金に対し余裕のある割合での運用か、手動での段階的引き上げを推奨します。
「複利で爆益」という言葉に飛びつく前に、まずは固定ロットで安定運用を確認すること。それがEA複利運用への正しい入口です。
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